CAPE
SPECIAL
INTERVIEW

Vol. 6

2007.2

介護現場において
療養者の活動性とQOLを高めるシーティングの課題と工夫

北出貴則先生

医療法人誠佑記念病院 リハビリ室 室長 理学療法士/福祉用具プランナー

※所属・役職等はインタビュー当時のものです。

医療・介護現場における座位への関心

今までわが国では、介護や医療現場において、高齢者や成人病により身体に不自由な障害を有した方々の寝たきりを予防するために"座位保持"がケアやリハビリの目的で多く行われました。ところが、寝たきりを予防する目的で行われた対策が、今度は”座ったきり“という状況がみられるようになり、現在医療や介護現場において、長時間座ったきりにより、不良な座位姿勢や拘縮、座位褥瘡、及び嚥下への影響などが問題となっています。

私自身、10数年以上前に、在宅で訪問リハビリを行っていた頃は、寝たきりやベッドや車いす上において、”座ったきり”の状況で、すべり座りや横に崩れた座位姿勢など、不良な座位姿勢の方々を多く見て来ました。そして私は、このような”座ったきりによる障害”、言い換えれば、”長時間座る事によって生じる障害”によって生じる不良な座位姿勢が及ぼす様々な影響について興味を持ち、日夜研究を行ってきました。

今までにも座位への対策は行われてきましたが、どちらかと言えば、座位保持や除圧といった面での対応が多かったように思います。

座位活動に必須のアイテムである車いすにおいては、介護保険が始まり、在宅では様々な調整機能のある車いすが利用されるようになってきましたが、医療機関や介護施設では未だに調整機能のない標準型の車いすを使用し、座位活動を行っているという現状が多くあります。そのような中、医療や介護現場において、「座位への関心」と共に、「車いすシーティング」への関心が高まり、座位への対策が本格的に稼動しつつあります。

不良な座位姿勢がもたらす影響

  1. 固定化された姿勢の崩れ
  2. 身体各部の関節可動性の低下
  3. 呼吸機能低下
  4. 摂食・嚥下機能低下
  5. 褥瘡(仙骨・坐骨・踵部・陰嚢・背部)
  6. 心理面の低下
  7. 介助量の増加
  8. 転落リスク
  9. 浮腫

人の姿勢・動きが座位活動に及ぼす影響

(不良座位姿勢の根本的な原因を追及してみえてくるもの)

不良な座位姿勢について現場では、”ベッドに座っていると、すぐ滑ってくるんですよ”とか、”滑って来ないようにするには、どうすればいいんですか?”、”身体拘束になりますから座面の角度をつけて座ってもらっています“や、”姿勢が崩れてきますが、座っていないと寝たきりになるでしょう?”など、このような声をよく耳にします。

ところが、原因はなんですか?とたずねると、”身体に障害があるからです”、”背中が円背なので、滑ってくるのは当たり前でしょ?なので困っているんです”と多くの人が原因を利用者、患者様の問題に摩り替えているのです。

殆ど聞かれるのは、身体拘束にならないように・・・という観点が多く、不良姿勢の根本的な原因追及が行われていないようです。

不良姿勢発生の原因を考える前に、私達の日常生活を振り返ってみると、その答えのヒントが見つかります。そのヒントとして、”人は誰しも、同じ姿勢で長時間過ごす事は出来ない生き物”ということであります。

このように、私達が日頃何気なく行っている座り方が、シーティングの対象となる方々に見られる不良な座位姿勢、座り方などの反応と、同じような傾向が見られるのです。
車いすやベッド上で見られる不良な座位姿勢、座り方などは、対象となる方々に、時間や重力など、普遍的に影響をもたらす要因と車いすやベッドなどの物理的環境が、心理、感覚、姿勢、動作などに与える影響をもたらす結果であると言えます。よって、身辺周辺の環境から人の活動を観察する視点が適切なシーティングを行う上で、大変重要なのです。

普段の日常生活と周辺環境からのヒント

公園のベンチで座っている人を見てみてください、お洒落なカフェで向き合って座っているカップルを見てください、誰しもみんな同じ座り方をしている人はいないはずです。
好き勝手に、無意識に、そして自由に様々な座り方を各々しています。
つまり、個人個人の置かれている状況や立場によって、また時間・空間的な、物的なものの影響などによって、座り方が異なっているのです。恐ろしいぐらい、座り方のバリエーションが私達の身体機能を駆使して行われているのです。しかも、無意識に・・・。

介護現場におけるシーティングの工夫

(1)座位活時間の調整

寝たきりの予防から、長時間車いす上で座ったきりによる障害の予防が、現状および今後の課題だと思います。これらの予防目的達成のためには、車いす上での座位活動時間への配慮が必要となってきます。例えば、時間をみながら対象者の方に「お尻は痛くないですか?」と聞きつつ対象者の反応(顔の表情、手の動き、足の動き、姿勢が傾くなど)をみながら、ときどき除圧のために座り直しや姿勢の修正などのケアを行うことも大切です。

(2)身体をサポートする支持面への工夫

車いすで身体を支持しているのは、さまざまな支持面(背もたれ・座面シート、アームレスト、フットレストなど)です。車いすというと座面にばかり目が行きがちですが、よい姿勢を維持するには、座面以外の支持面の総合的なバランスが不可欠です。すなわち、背もたれやポジショニング用具、各種のレスト(支え)があって初めてよい姿勢が実現できるのです。

座布のたわみ
車いすのシートがスリングシートでたわんでいると、座る安定性がわるく、不良座位姿勢の原因となることがあるので注意しなければなりません。
車いす用クッション
通常、座面には車いす用クッションを使用しますが、さまざまな種類や機能があります。また、座面や背もたれの状況によっては、座りごこちや姿勢の安定性に影響を及ぼすので、状況に合わせて選択をしてください。
背もたれの重要性
座面ばかりに目を向けるのではなく「背もたれ」もその重要性を意識して積極的に利用することが大切です。座面の圧分散自体も背もたれの利用による良い姿勢の実現で改善されたり、トータルなバランスのよい補助具の活用がシーティングの理想を実現させます。
アームレスト
一般的な車いすに備え付けのアームレストは、支持面が狭く、身体に対し左右に位置しているので、前後方向の支持には適していません。そのため、クッションやテーブルなどを使用し、姿勢の安定、安楽を考えます。
フットレスト
車いすをいす代わりに使用する場合は、必ずしもフットレストに足を乗せておかなくてもよいので、足の高さにあった足台などを利用したほうが、よりよい姿勢を保つことができます。

このような工夫は、特別な車いすや道具がなくても、今すぐ介護現場でも行える事であると思われます。
また、車いすのみならず、ベッド上における座位でも同じようなことが言えるので、顔の表情や姿勢の状態を見ながら背上げや足元を挙げて起こしていく事はもちろんですし、衣服のズレや皮膚のズレに対しても考慮し、背抜き足抜きを行うなどの対処が必要であります。また、車いすのように肘掛がベッドにはありませんので、それに代わるような肘や前腕のサポートがベッド上でも必要となります。

介護現場におけるシーティングの工夫は、標準型車いすしかなければ、それなりの工夫によりある程度の事が可能でありますが、上記のような対策で全てが解決するものではないという事を念頭にいれておかねばなりません。
ただ、車いすは必須のアイテムですが、車いすだけで全てがうまくいくという事は決してありません。車いすのみならず、対象となる方の生活全般を想定した上で、改めて車いすなどの環境から動作や姿勢、心理などの人の反応を見ながら関っていく事が工夫するよりもまず、大切であると思います。

今後も、車いすへの関心、座位活動を支援する人が医療・介護現場で増えていく事をねがいつつ・・・。