CAPE
SPECIAL
INTERVIEW

Vol. 7

2007.12

いま、在宅の褥瘡予防のためにできること
「予防ケアの徹底」と「訪問スタッフの連携」

森本みづかさん

済生会三田訪問看護ステーション 皮膚・排泄ケア認定看護師(旧WOC看護認定看護師)

※所属・役職等はインタビュー当時のものです。

WOC看護認定看護師を取得し、そして、在宅看護の道へ

私がWOC看護認定看護師となったのは、病棟に勤務しているときに、ETナースと関わったことがきっかけです。最初はストーマケアや褥瘡に関する知識はありませんでした。ETナースの指導を受けるうちに、知れば知るほど基本を一から学びたい、専門知識を深め役立てたいと思い、病院を退職しWOC看護認定看護師を取得しました。

その後、病院に復帰しましたが、病棟や外来でストーマの患者さんを看るなかで、「病状の悪化などで通院できなくなったときに、誰がケアをするんだろう」と思いはじめました。ストーマの皮膚トラブルや褥瘡は、ご家族がケアをすることができればいいのですが、介護者が高齢であるなどの理由で充分なケアができず悪化する場合も多くあります。自分が学んだ知識を活かし、悩んでいる家族や寝たきりの患者さんの手助けをしたいとの思いが強くなり、在宅看護に携わろうと決意しました。そこで、済生会三田訪問看護ステーションの当時の所長が、訪問看護師としてETの専門知識をいかし看護を行っていることを知り、2002年7月に入職しました。

まず”看る“ことが、褥瘡予防の第一歩

このステーションに入ったときの印象は、「褥瘡があるご利用者が少ない」ということです。「さすが、褥瘡についての第一人者である所長が中心に活動しているだけのことはある」と思いました。1997年に当ステーションが開設したときには、ご利用者の褥瘡保有率が約30%だったのですが、2000年までの3年間で約10%までに減少させることができたそうです。その背景には、2000年の介護保険制度の施行により床ずれ防止用具が福祉用具貸与対象品目となり、ご利用者の選択肢が増え、導入しやすくなったことがあるかと思いますが、当ステーションの活動においては積極的なスキンケアの実施が理由の一つではないかと思います。

寝たきりの方の場合、オムツをしていらっしゃることによって尿や便、汗などで皮膚が汚染されます。汚染された皮膚は弱くなり、褥瘡になりやすくなります。そこで、オムツをしていらっしゃる方は褥瘡の発生リスクが有りととらえ、全ての方に予防的にスキンケアを実施します。汚染物をきれいに洗い流し、保湿クリームをぬることで、スキントラブルから引き起こされる褥瘡に対するケアを行っています。そして、オムツ交換のときなどに必ず観察することを徹底して、仙骨部や尾骨など発生しやすい部位に注意します。

また、多くの方が見落としがちなのが踵の褥瘡です。当ステーションの調査でも、仙骨部、尾骨部に次いで踵の褥瘡発生が多いことが分かりました。(全国の済生会の訪問看護利用者対象、褥瘡発生状況調査より、2004年11月)高齢者の場合は、知覚が鈍くなっていたり、足のむくみがあったり、循環が悪くなっていたりすることもあり、踵の褥瘡が発生しやすい状態です。ベッド上で過ごされることが多い方でも、ご自身で足を動かせれば大丈夫と思ってしまいがちなのですが、踵をすらせるような動きをしている場合には、シーツとの摩擦により褥瘡が発生してしまうこともあります。踵もふとんをめくって直接観察することが大切です。

私ども専門看護師に限らず、ご家族・ヘルパー・ケアマネージャー、皆さんに言えることですが、褥瘡の予防やケアは看る(観察)ことからはじまります。介護者であるご家族の負担やご利用者の精神的・肉体的な苦痛を増やさないためにも、褥瘡の予防はとても重要なことなのです。

多くの方に褥瘡の予防方法を知っていただくため、講習会を開催

1997年の開設以来、毎年1回行っている”床ずれ予防のための介護講習会“の開催も褥瘡を減少できた理由の一つではないでしょうか。介護者であるご家族、ヘルパー、ケアマネージャーはもちろん、ご利用者のショートステイ先の施設や老人保健施設の方にも参加を呼びかけ、毎年3月に開催しています。

この講習会では、褥瘡の発生原因やスキンケア、栄養について、床ずれ防止用具の種類や使用上の注意点についてなど、実践に即して講習します。実習では、レンタル事業者の協力を得て床ずれ防止用具を展示し、ご利用者がどのような用具に寝ていらっしゃるのかを知っていただくために、実際に寝ていただいています。床ずれ防止用具を使用している際には、ベッドの背上げをするとご利用者の身体がずれてしまい、また、腹部への窮屈さから逃れようとご自身で姿勢をずらすことがあり、皮膚が引っ張られ褥瘡が発生しやすい状態になります。そのため、ベッドの背上げも体感していただき、どこに窮屈な感じがあるのかを確認したうえで、背上げの方法を指導しています。高齢者の皮膚は引っ張るとよく伸びる状態ですので容易に皮膚のしわがよってしまい、そこからスキントラブルが起こる場合もありますので、注意が必要です。

褥瘡のリスクアセスメントの徹底

褥瘡がある、または褥瘡が発生しやすい状態の方が退院し、在宅で継続してケアを行う場合、医療機関との引き継ぎは、ご利用者に関わる全ての方々との連携が大切です。当ステーションでは、週1回、母体病院である済生会中央病院への病棟訪問を実施し、他の病院から退院される場合でも必要に応じて退院カンファレンスに参加しています。病棟看護師と情報交換を行いながら退院指導内容を確認し合い、退院後にご利用者やご家族が困らないように努めています。

退院後の初回訪問の際には、病棟で行われた指導内容がその療養者の生活に即しているか、ご利用者やご家族が問題なく在宅生活に移行できたかなどを”退院連絡表“に記入し、それぞれの医療機関へ送付しています。

褥瘡の予防のためには、リスクアセスメントが重要ですが、現在は、病院で多く用いられている褥瘡危険因子評価表やOHスケール、在宅版K式スケールなどがあります。当ステーションでも独自に作成したスケールを10月より活用しはじめたところです。初回の介入時には必ずアセスメントするよう、徹底しています。褥瘡があればどのようにできたものなのか、今後褥瘡の発生のリスクがある部位まで考え、予測もします。

ご利用者の状態が変わった場合、ケアマネージャーが中心となって、訪問看護師はもちろんヘルパー、訪問入浴、デイケアやショートステイ施設など、ご利用者が利用している介護サービスに関わる方が集まり、介護者とともに”担当者会議“を実施しますが、今後はその際にもこのようなリスクアセスメントを活用して全員が正しく状況を把握できるようになっていくといいですね。

在宅においても、連携が大切です

認知症の方や寝たきりの方など、家族だけで介護することが難しい在宅療養者が増え、数多くの職種の方がお一人のご利用者に関わるようになっています。

訪問看護師にとって、介護するご家族の方、そしてヘルパーさんとの連携はとても大切なことです。訪問看護師が週に2・3回訪問できればいいのですが、週1回の場合もあり、私たちだけではケアしきれないのが現状です。

そこで、ご家族にノートをご用意していただき連絡帳として活用しています。まず、ご家族と訪問看護師との連絡用に1冊、訪問看護師とヘルパーさんとの連絡用に1冊といった具合です。ノートには、排便状態、飲水量、ADLの変化や発赤部位・褥瘡の変化などを記入してもらいます。こちらから記録していただきたい内容をリクエストすることもあります。

ご家族には無理のない範囲でケアをしていただきますが、スキンケアや体位変換などのケアはどこまでできるかを見極めて、できるケアを選択して指導しています。例えば、褥瘡のできやすい圧迫のかかっている部位に手を入れて体感していただき、体位変換の時にはどのようなずれの力が加わっているかも一緒に確認していきながら、体位変換の仕方を指導します。

機会があればヘルパーさんにも発赤部位や褥瘡を一緒に見ていただき、褥瘡が発生した原因などを理解してもらっています。ヘルパーさんは他の訪問スタッフに比べ、ご利用者のお宅へ伺う機会も多く、いち早くご利用者の変化を知らせていただける存在でもあるのです。

また、ご利用者が利用するサービス施設との連携も重要です。以前、ショートステイから帰って来るたびに褥瘡ができてしまうご利用者がいらっしゃいました。ショートステイに行かれた日の申し送りに同行したところ、エアマットレスのエア(空気量)が入りすぎていたことが分かり、アドバイスをして適切な設定に直したことがありました。ご家族の疲労を軽減するために利用したサービスでしたが、褥瘡に対する新たなケアが増えることで介護の負担が増してしまうのでは、本末転倒ですよね。施設の介護職員ともケアの状況を確認し、理解し合う事が大切です。

もちろん、ケアマネージャーとの連携は最も大切なところです。現在の介護保険制度では、福祉用具のサービスを利用する場合、プランを立てるのはケアマネージャーです。以前、介護用ベッドを選ぶ際に、ご家族からの要望を受けて1モーターのベッドを導入しようとしたケースがありました。しかし、老々介護であったため、これからの介護の負担を考え3モーターのベッドの方がいいのではとアドバイスしたことがあります。ベッド一つにとっても、これからご利用者がどういう状況になるか、介護者の状態など見極めて福祉用具を勧めることが必要です。

在宅療養の要となるケアマネージャーにも褥瘡の予防について知ってもらう事が大切だと考え、専門看護師として床ずれ防止用具の選定のアドバイスをするよう心がけています。

褥瘡は介護者の協力なしでは予防できません。そのためには、介護者への教育が必要ですし、訪問看護師自身が褥瘡に関する正しい知識と技術を身につけておく必要があります。また、ケアマネージャーも床ずれ防止用具の選択を行うためにも、その知識を得ておく必要があります。

地域で活動している皮膚・排泄ケア認定看護師は少ないですが、お役に立てれば幸いです。在宅での褥瘡発生”ゼロ“を目指して一緒に頑張りましょう。