車いすクッション
SPECIAL
COLUMN

2021.05

痛みなく座れることから
始まるケア

神野 俊介先生

医療法人社団KaNaDe
やまと@ホームクリニック/かんたき かなで
理学療法士・介護支援専門員

ケアプランからかけ離れた状態になっていませんか?

ケアマネジャーにとって、車いすはレンタル頻度の多い福祉用具のひとつですが、車いすと同時に車いすクッションの選定までを念頭に置かれている方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか。他のサービスとの兼ね合いで車いすクッションはときに優先度が低くなりがちですが、実際には車いすクッションを使用せずに座り続けた結果、利用者にさまざまなデメリットが生じている介護・医療現場は少なくありません。

たとえば「寝たきりを防ぐため、車いすで離床し体力をつけましょう」「デイサービスで他者と交流し、認知症や廃用症候群の進行を予防しましょう」といったケアプランは多いですが、実際に車いすでデイサービスに通い始めてから「円背が強くなってきた」「脊椎や尾骨に床ずれができた」「全身が硬くなってきた」「食べていてむせるようになった」「呼吸が安定しなくなってきた」「あまり話さなくなった」等々、ケアプランからかけ離れた状態となっていく利用者を少なからず目にします。

姿勢崩れの原因は体力低下や認知機能だけが問題?

そのような方を実際に拝見すると、車いすはレンタル料が安価である標準型、車いすクッションも未使用、薄いナイロン製の座面に座り、お尻が前にずり落ちた姿勢で過ごされている方が少なくありません。スタッフからは「体力がなく注意も散漫で、姿勢を直してもすぐにお尻が前へずり落ちてくる」「廃用症候群や認知症が進行しているのだと思います」という答えがよく返ってきます。はたして、車いす姿勢が崩れてくるのは、ご本人の体力低下や認知機能だけが問題なのでしょうか。

お尻のやせた方がこのような車いすに座っていると、まずお尻に痛みが生じます。痛みにより全身の筋肉は硬く緊張します。ご本人はつらい痛みから逃れるために、お尻を少しずつ前にずらし、そのたびに前へずり落ちた姿勢となっていきます。結果として骨突出のある背骨や尾骨の皮膚にズレが生じて床ずれが発生し、円背や拘縮もさらに強まり、呼吸や嚥下・発声機能も低下する、というように全体的な状態悪化につながります。

悪循環を軽減するために座面を整えましょう。

このような状況で最優先すべきなのは、体力をつけるためのリハビリ依頼ではなく、まず痛みなく座れる環境づくりです。お尻のやせた方でも痛みなく座れる車いすクッションを使用することで、上述の全身的な悪循環を軽減することが可能です。生活を豊かにするための車いすが、利用者の苦痛・状態悪化の引きがねになってはいないか、ぜひ周囲の福祉用具専門相談員やリハビリ職と意見を交わしていただけますと幸いです。