CAPE
SPECIAL
INTERVIEW

Vol. 11

2011.05

安全性と現実的な介護力を調和させた
ワンランク上の褥瘡対策

恩田啓二先生

JA静岡厚生連 リハビリテーション中伊豆温泉病院 診療副部長

※所属・役職等はインタビュー当時のものです。

褥瘡は予防も治療も可能な時代

当院では、約7年前から褥瘡治療目的の入院を積極的に受け入れています。リハビリテーション病院なので、比較的長期の入院が可能です。このため、完治までに時間がかかる褥瘡の保存的治療に適しています。年間約50名の褥瘡症例を受け入れており、このうち9割以上が完全治癒して退院されています。もはや褥瘡は治らない、治せない時代ではなくなったと感じています。

褥瘡治療でもっとも重要な秘訣は「除圧」

褥瘡の最大原因は圧力。だから褥瘡治療で最も重要なことは、原因の除去すなわち「除圧」です。当院で行っている除圧の要点は以下の4点に絞られます。

除圧の要点

  1. 高機能エアマットレスを使用する
  2. 日常とることが想定されるあらゆる体位で好発部位の体圧(接触圧力)をあらかじめ測定しておく
  3. 局所の体圧値が40mmHg以下になるように工夫する
  4. 局所の体圧値が40mmHg以下にならない体位は可能な限り回避する
  1. 重度の方へは、使用するマットレスは必ず高機能のエアマットレスを選択します。当院ではビッグセル-Ex(エアマスタービッグセル-Ex)を導入しています。体重を入力するだけで適切な状態に設定できるシンプルさがいいですね。多機能のエアマットレスや複数種類のエアマットレスを混在させてしまうと、管理が繁雑になりスタッフも混乱します。その点、ビッグセル-Exの1機種だけに限定すると扱いに慣れやすく、管理は格段に単純化されます。
  2. の体圧測定は極めて重要です。これは毎日行う必要はなく、褥瘡患者さんが入院してきたその初日に行います。あるいは、褥瘡が発生したら発見次第体圧を測定します。しかも褥瘡のある局所だけでなく、大転子部や腰椎部など体位変換すると褥瘡発生が予想される他の部位でも、あらかじめ体圧を測定しておきます。さらに、経管栄養などでギャッチアップすることが想定されるなら、そのような姿勢でも局所の体圧を測定しておきます。
  3. そして高機能エアマットレスの体重設定を変更したり補助クッションで姿勢を変えたりするなどして、局所の体圧値が40mmHg以下になるように工夫します。当院の褥瘡対策マニュアルでは、この体圧コントロールは翌日に持ち越さずその日のうちに「40mmHg以下」に到達しておくよう定めています。 ここで指標としている40mmHg以下という値は、旧式の簡易体圧測定器(体圧計)で測定した値であり、臨床研究によって導かれた値で一つの目安とされています。*
    ※引用文献 *須釜淳子ほか:褥瘡ケアにおけるマルチパッド型簡易体圧測定器の信頼性と妥当性の検討:褥瘡会誌,2(3):310~315.2000
  4. 万一局所の体圧値が40mmHg以下にできない場合は、可能な限りそのような体位はとらせない、という決断も時には必要です。たとえば、経管栄養で右側臥位のギャッチアップの体位では、まず40mmHg以下にはなりません。ギャッチアップしないと嘔吐してしまう方なら、褥瘡が治るまで一時IVH(中心静脈栄養法)に逃げてギャッチアップしないという選択肢も考慮します。どうしても経管栄養でギャッチアップが必要なら、その体位を保持している時間を許される限り短くします。注入時間を短縮するには、栄養剤の半固形化も有用です。

安全を確保して体位変換の実施を

痰の喀出を促したり、嘔吐を防止したり、気分転換等のためにも体位変換は非常に重要です。しかし、その体位変換が必要なら、あらかじめ変換させる体位で体圧の安全を確認しておくべきです。
仙骨部だけでなく、左右の大転子部にも褥瘡のある患者さんをよく見ます。仙骨部に褥瘡が発生するのはわかりますが、どうして左右の大転子部にも褥瘡ができてしまうのでしょう。それは、安全を確認しないで左右に体位変換しているからではないでしょうか。安全に体位変換できないのであれば「体位変換しない」という究極の選択肢も視野に入れる必要があります。体位変換しないと褥瘡が悪化するのではないかと心配されるかもしれませんが、適切なマットレスを選択して局所の体圧値をやはり40mmHg以下で上手に体圧をコントロールすると、そのような心配はほとんどないと思います。

当院で褥瘡治療中にあまり体位変換しないケースがあるのは、手抜きではなく、実は安全確保のため敢えてそうしているのです。体位変換であっても安全が最優先ということですね。

40mmHg以下にならないときのヒント

実は、高機能エアマットレスを使っても局所の体圧値を40mmHg以下にすることは非常に困難です。実際そう簡単に40mmHg以下にはなりません。ところで、看護師さんはシーツやマットレスを汚さないよう、習慣でお尻の下にいろいろなものを敷いていますよね。実はこれらが体圧上昇の盲点なのです。

高機能エアマットレスは、局所が沈み込むことで接触面積を拡大させ体圧を分散しているのに、平型おむつやバスタオル、横シーツ、ラバーシーツ、防水シーツなどを敷いてしまうと局所が沈み込まず、高機能エアマットレスの効果が充分に発揮できない恐れがあります。薄いシーツたった1枚でも皺ひとつなく「ピンッ」と敷いただけで、トランポリンと同じ状態になってしまい体圧はすぐに上昇してしまいます。このハンモック現象を防ぐため、高機能エアマットレスを使うときはシーツをダラダラに敷く”ルーズフィット“が正解なのです。さらに、おむつの重ねあてや尿取りパッドの使用、厚手の創傷被覆材、これらは厚みが増すためやはり局所の圧力を上昇させてしまいます。

高機能エアマットレスを使用しているのに褥瘡が悪化する。その原因は体圧コントロールをしていない、つまり高機能エアマットレスを有効に機能させていないからなのです。高機能でないマットレスなら体圧はもっと上昇してしまうでしょう。これらは体圧計で測ってみると容易に理解できます。
ただし、これらの項目は最初からやってはいけないことではありません。体圧を測ってみて、どうしても40mmHg以下にできない場合に、これらの要因をひとつずつ取り除いていけばいいのです。40mmHg以下の工夫に決まった手法はありません。患者さんの日常生活動作をじっくり観察し、体圧上昇の原因を見抜く鋭いセンスが必要です。

体圧上昇の盲点

  1. 大型平型おむつを敷く
  2. バスタオルを敷く
  3. 横シーツを敷く
  4. ラバーシーツを敷く
  5. 防水シーツを敷く
  6. シーツをピンッを張って敷く
  7. おむつの重ねあて
  8. 尿取りパッドの使用
  9. ガーゼの重ね当てや厚手の創傷被覆材の貼付
  10. 厚手のジャージや冬物のパジャマ(ズボン)の着用

体圧測定で注意すべきポイント

体圧計のセンサーパッドを、オムツの外やパジャマの上からあてても意味がありません。それではセンサーパッドをスポンジに包んで測っているようなものです。知りたいのは体表面に直接働く圧力です。体圧を測定するとき、体表に直接センサーパッドをあてることが重要です。でも浸出液等で汚染されるので、センサーパッド部分を薄いフィルム材やポリエチレン袋などで包むといいですね。

体圧測定の頻度ですが、定期的に体圧を測定することにこだわる必要はありません。むしろ治癒が遷延したとき、あるいは褥瘡が悪化したときに体圧を調べ直すことに意義があると考えます。そのような時はいつも「除圧が不充分ではないか」と疑うよう心がけます。

たとえば褥瘡が深くなったり、浸出液が増えたり、サイズが大きくなったり、感染や炎症がおきたり、壊死組織が増えたりしたときには必ず局所の体圧を測り直します。このようなときたいてい体圧値は40mmHgを越えているはずです。そうしたら、また体圧を上げている要因を探って圧力上昇の原因を排除します。こうして、局所の体圧を40mmHg以下で維持しつづけるのです。

右手に血圧計、左手に体圧計、ポケットに体温計

在宅療養介護では2時間ごとの体位変換が介護者にとって過大な負担となっています。こんなとき高機能エアマットレスを適切に選択し、確実な除圧で安全を確保したうえで体位変換を再考すれば、介護量は大きく軽減され在宅介護はより現実的なものとなります。高機能エアマットレスは看護師だけでなくケアマネージャー、ヘルパーなど、介護に携わる多くのスタッフの方々にもコントロールしていただける機器ですから、積極的に活用して欲しいと思います。

合い言葉は「右手に血圧計、左手に体圧計、ポケットに体温計」です。それほど体圧測定は褥瘡の予防にも治療にも重要です。確実な除圧で安全を確保し、現実的な介護力に調和させたワンランク上の褥瘡対策で、介護環境が少しでも改善していくことを期待しています。

※今回伺ったお話は、車いすで発生する坐骨部の褥瘡、下肢の末梢動脈疾患(PAD)や糖尿病性壊疽で発生する下肢(特に踵部)の褥瘡にはあてはまりません。あくまでベッド上での長期臥床の環境で発生する一般的な腰背部の褥瘡を想定しています。

JA静岡厚生連 リハビリテーション中伊豆温泉病院

昭和42年の開設以来一貫して脳血管疾患・関節リウマチに対する先進的なリハビリテーションを提供してきた。現在は総合リハビリテーション機能をさらに充実させ、回復期病棟を3病棟(137床)、一般病棟を2病棟(113床)運営している。地域の公的医療機関として根拠に基づく安全な医療を提供するとともに、検診・人間ドックや訪問看護ステーション・デイサービスの併設等、健康管理活動や在宅医療も推進している。

リハビリテーション中伊豆温泉病院 Webサイト

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