CAPE
SPECIAL
INTERVIEW

Vol. 2

2004.10

患者さんはもちろん、介護する人の心とからだ、
そして家計にも優しい褥瘡ケアとは

矢口美恵子さん

有限会社スマイルネット まちの看護ステーション代表 看護師 ケアマネジャー

※所属・役職等はインタビュー当時のものです。

褥瘡と洗浄・入浴

家庭で介護をしている場合、褥瘡部分は洗ってもよいものなのでしょうか。

「大丈夫です。むしろ必ず洗浄していただきたいですね。感染をおこしているケースでは、消毒が必要な場合もありますが、極論をいえば消毒より洗浄が大切です。」

何で、どのように洗ったらよいのですか。

「生理食塩水がベストですが、家庭では水道水を沸騰させて冷ました微温湯でかまいません。また、微温湯1000mlに食卓塩9g(1回量300mlに小さじ1杯強)を溶かせば、生理食塩水に近いものをつくることができます。洗浄の用具として、微温湯を入れるシャワーボトルも販売されていますが、家庭では食器用洗剤の空き容器が便利です。
実際の洗浄方法ですが、洗浄できる体位をとり、フラットタイプの紙おむつを敷きます。容器に入れた微温湯を壊死組織がある場合は圧をかけ、肉芽形成があるときには圧をかけずに流します。なお、ポケット褥瘡がある場合、介護者の方がその内部まで洗浄することは難しいかもしれません。主治医や訪問看護師などと相談してください。同時に、洗浄の頻度なども相談してください。」

褥瘡がある方の入浴についてはいかがでしょうか。

「状態が許せば積極的に入浴を行ってください。家族だけで入浴させることが難しい場合も多いと思いますので、訪問看護、訪問入浴や施設入浴を利用することをお勧めします。また、シャワー浴も有効ですから浴槽での入浴が難しい場合は、足浴をしながら肩にタオルをかけ、その上からかけ湯をしてください。褥瘡部へも適温と適度な圧力のシャワーをあてましょう。

寝たきりの方は、家族に迷惑をかけるからと、入浴を我慢される場合が多く、以前に「褥瘡はあるし、動けないので入浴などできるわけがないと思っていた」と、言われたこともあります。清潔が保たれ、精神的な満足感につながるだけでなく、「シャワー浴の間、座位を保つことができた」など、ADL(日常生活動作)拡大のきっかけにもなりますから、できる範囲内で頻繁に入浴を行ってください。」

季節のスキンケアとおむつ

それでは、季節によってスキンケアに関して注意することはありますか。

「そうですね、特に冬期は乾燥させないよう、褥瘡の発生しやすい踵、仙骨、腸骨、大転子などの部位に白色ワセリンをぬります。ワセリンは油性なので尿などの水分をはじき、肌を保護する効果もあります。皮膚保護剤のソフティ等も販売されています。

皮膚ケアからは少し離れるかも知れませんが、訪問看護をしていて感じることは、夏は冷房、冬は暖房によって、寝たきりの方が季節を感じられなくなっているのではないかということ。外気の温度とあまりにも差があると、人間が持っている発汗などの調節機能が低下してしまうのではないかと心配です。その方の健康状態にもよりますが、過度な冷暖房は控え、寝たきりでも四季を楽しめるよう配慮することも大切だと思います。訪問していたお宅では、冬期は入浴の際に「ゆず湯」にするなど、工夫していらっしゃいました。」

寝たきりだからこそ、四季を感じさせてあげたいですね。ところで、おむつの上手な使い方について、何かアドバイスをいただけますか。

「尿が陰部や臀部に付いても、それだけでは皮膚トラブルになることはあまりありません。ですが、そのまま放置すると尿はアルカリ性に変化し、皮膚を刺激すると同時に細菌が発生しやすくなります。また、最近は、吸収力の高い紙おむつが市販されていますので尿の心配は少なくなっていますが、便は吸収されないんですね。ですから、排便の後は洗い流すのが一番です。拭き取り用ペーパーを利用するのもいいのですが、できれば洗浄してください。その際、家庭で使い古したシーツやタオル、Tシャツなどを30cm角位に切っておけば、使い捨ての拭き布として利用できて便利です。ここで肌を守るポイントは、強い力で洗ったり、こすったりしないことです。

また、褥瘡がある場合は、そこに尿が付かないよう、尿とりパッドなどを使用し、その部分が汚れていたら洗浄してください。おむつ交換は肌のチェックをするチャンスですから、褥瘡を防ぐためにも、赤くなっていないか、ただれなどはないかなど、注意することが大切です。」

家族ができる介護とは

こまめな洗浄やおむつ交換などが大切なことは分るのですが、在宅介護では家族への負担が大きくなりますね。

「負担を少なくするためには、家族でできること、できないことをはっきりさせるのが大切です。できないことはケアマネージャーとよく相談し、看護師や介護福祉士などの専門家をはじめ、外部の人の力を借りましょう。また、逆に「家族にしかできないこと」もあると思いますので、そちらを中心に行い、サービスを上手に利用してください。がんばり過ぎてはいけません。

たとえば、清拭をする際にも、一度に全身を済ませるのは大変ですから、シャツを着替えるときに胸、背中を、おむつ交換のときに腹部、陰部、臀部を行うなど、分けて拭くのもいいと思います。市販の使い捨てタオルを使用するのもよいのですが、湿らせたタオル2~3本をビニール袋に入れ、電子レンジで温めて使うという方法もあります。長く介護をするためには経済性も大切ですからね。

先ほど、洗浄の際に食器洗い用洗剤の容器の利用をお勧めしましたが、家庭にはケア用具となるものがたくさんあります。ビニール袋にお湯を入れて、手や足などの部分浴に使ったり、ベッドで洗髪や部分浴をするときに、フラットタイプの紙おむつを下に敷いて使ったり、アイデア次第で、経済負担の少ない介護は可能です。」

なるほど、お金を出さずに、知恵を出すことも介護には大切かもしれませんね。

「はい。そして他人の力を借りることも大切です。褥瘡は、他人には見せたくないところに発生することが多く、しかも介護する方が自分の責任だと感じてしまう場合が多いんです。したがって医師や看護師に相談する時期を逸して、悪化させてしまうケースも少なくありません。そうならないためにも、早めに専門職に相談することが大切です。正しい治療をすれば、褥瘡は治るのですから。」

褥瘡が完治した例はありますか

「80代の女性で拘縮がひどく、5カ所に褥瘡が発生していた例ですが、エアマットを導入し、入浴を中心にケアを行いました。一度、健康状態が悪化して入院した時期もありましたが、約1年で褥瘡は完治しました。息子さんご夫婦はできるだけ入浴介助を行い、患者さんはすでに会話はできない状態なのですが、話しかけながらからだを洗っていました。これこそ、家族にしかできない介護だと思いました。

看護師、特に家庭に伺って看護をする私達は、患者さんはもとよりご家族とともに喜び、そして悲しみも共有します。家庭で介護されているご家族の方は、自分だけでがんばろうとせず、できないことは助けを借り、できることから始める。そして、続けることが大切なのではないでしょうか。そのときにそばで家族の支えになる、私達はそんな存在でありたいと考えています。」

まちの看護ステーション

平成16年7月にオープンした訪問看護ステーション。利用者が住み慣れた自宅で、また地域で安心して笑顔で生活できるように、病状の観察や食事・排泄の援助といった各種サービスを提供している。