CAPE
SPECIAL
INTERVIEW

Vol. 3

2005.4

身体を保持するだけでなく、
動きを支持するポジショニングとは

伊藤 亮子さん

理学療法士

※所属・役職等はインタビュー当時のものです。

コンパクトガイド

私の考えるポジショニングの原点は、ドイツで学んだリハビリテーションでした

ポジショニングには様々な目的や考え方がありますが、私が主にポジショニングを実践し学んできたのは、ドイツの養護学校でした。養護学校は子供たちが対象ですから、これからの可能性を考え発達を促すために、私達が直接関わる場面だけでなく、それ以外の時間も含めた支援が行われました。発達障害により寝返りが打てない子供にも、ピローなどを用いてサポートすることで、横向きや腹這い、座るなど、自分の力だけではとれない姿勢も積極的に取り入れます。そうすることで子供たちは、自分のとれる姿勢とそこで可能な動きにとどまらず、新たな可能性を広げていきます。また姿勢の変化は呼吸、消化、血液循環など体内の活動にも影響します。様々な動きを知り身体の部分や中心を認識すること、そして違った視点を持つことが身体機能面だけでなく、精神的、社会的な発達へと繋がっていきます。そういった考え方をドイツで学んできた私にとって、ポジショニングとは、動きと発達をサポートするリハビリテーションの一環でした。

ですから、帰国後主に大人の方々に関わるようになってからも、同様の考え方からスタートしました。隙間を埋めての圧分散や姿勢を保持することだけでなく、支持することで動きを促進することも大切だと考えました。

ポジショニングの基本は、身体の各部位の位置と重力の影響を考えることです

身体を頭、胸郭、骨盤、両腕、両足、という7つの大きな部位として考えると、姿勢はその位置関係によって変わります。

位置はその各部位の重さを動かすことで変わっていきますが、その動きをご本人が意識しなければならない場合、或いは動き自体が難しいような場合にはポジショニングを考える必要があります。

それぞれの部位の重さだけでなく時間の経過により重力の影響が強くなりますから、その姿勢を保つことで部分的な過度の負担や他の部位への悪影響がないように気をつけることが大切です。

まずは身体の中心にある部位、骨盤、胸郭、頭の位置を整えます。骨盤の位置を確認し、可動域があればなるべくニュートラルな位置に戻すことから始めます。骨盤の位置は腰骨が指標になりますから、前後、左右、上下と一方に傾いたりねじれたりしていないかを確認します。胸郭、頭も同様です。それから足や腕、それぞれの位置と足が骨盤に、腕が胸郭に与える影響を含めて、考えていきます。

安定させるポジショニングと能力を引き出すポジショニング

その基本をふまえた上で、ポジショニングには2つの目的が考えられます。ひとつは身体を安定させ保持すること、もうひとつは動きを促進し能力や可能性を広げるために支持をするという考え方です。これまで姿勢の変化=動きが呼吸、消化、血液循環など体内の活動を促進することはあまり重要視されてきませんでした。

休む時など、力を抜くことを目的にする時には広い面で受けた方が身体は安定しますが、過度なサポートは動きを妨げることもありますし、間違った場所をサポートすると変形を助長してしまうので注意しなければなりません。

大切なのは何を目的としてポジショニングを行うのか、それにあわせてどのような用具をどのように使うかです。

目的にあわせて、正しい補助用具を選択しましょう

例えば膝が曲がっている方の場合、仰向けに寝て膝の下側の位置に適度な固さのピローを入れてあげれば、重力によって徐々に膝が伸びていくことが期待できます。 パンパンに張った固すぎるピローでは、重力の影響が期待できないどころか、悪い影響があるかもしれません。逆に、柔らかすぎる素材で身体を支持しようとした場合、安定せず、また身体の部位をはっきりと認識できなかったりすることでかえって緊張を高めてしまうことがあります。

このように、ピローなどの補助用具に関しては、硬さや形状などの素材の性質を考慮して使用しましょう。専門家に相談するなどして、症状や目的に合った物を選択しましょう。

ご本人の理解と協力、影響を把握すること

これまで、ポジショニングの考え方や目的をお話ししてきましたが、ご本人や介護者にご理解いただきながら進めていくのが前提です。ポジショニングのためにピローなどを導入する際には、何を目的にポジショニングを行うのかを十分に説明しましょう。導入時には特に頻繁に姿勢が崩れていないか、発赤や痛みはないかなど、必ず確認しましょう。問題が無ければ、様子をみながら状況に合わせてポジショニングを行う時間を徐々に長くしていきます。

さらに、せっかくポジショニングを導入しても、その効果がわからなければ意味がありません。定期的に観察し、変化を確認してください。当然のことですが1日のうち数時間だけ負担の少ない有効な姿勢をとっていても、他の時間に姿勢が崩れていたら、プラスマイナスゼロ、あるいは悪影響が出る場合も考えられます。負担の少ない有効な姿勢を保持し、内臓や関節への負担などの悪影響や、褥瘡、変形などの二次障害を予防しましょう。

ポジショニングは機能の向上などに有効ではありますが、万能ではありません。様々なサポートのひとつとして考えてください。例えば、褥瘡であれば姿勢以外にも、皮膚の清潔度、栄養状態など様々な問題が考えられ、ポジショニングを導入しただけで褥瘡が改善・治癒するとは限りません。どこで姿勢の崩れがおこっているのか、どこを改善したらいいのか、その方の一日のライフスタイルをトータルに考え、他のアプローチと総合的にみていくことが必要です。

これからも、私を必要とされる方々とともに生きて行きたい

ポジショニングの最大の効果は症状が改善されることによって生活の質が向上することだと思います。

在宅の高齢の方で転倒をきっかけに日中も臥床するようになり、だんだんと変形が進み、過度に仙骨部に圧がかかることでひどい褥瘡ができてしまうことがあります。私が関わった方は一日中、ほとんど一人で過ごしていましたが、ポジショニングを導入することによって仙骨部への過度な圧迫が軽減され、褥瘡が治癒し、以前は褥瘡のために利用できなかった施設の利用が可能になりました。

脳の障害により筋緊張が強く仰向けの姿勢しかとれなかった方には、導入時には30分ぐらいかけて身体を動かしながらピローの位置を徐々に変え、側臥位になってもらいました。それを奥様が毎日のように続けたことで、だんだんリラックスできる時間が増えてきたのです。間接的ですが、ヘルパーの方から「着替えがスムーズになった」という声も聞かれ、ご本人にとっても介護者にとっても、着替えは緊張の高まる時間ではなくなったのではないでしょうか。

最後に、セラピストの語源のひとつに「ともに生きて行く」といった意味があるのですが、私はこれからも理学療法が必要な方をサポートし、自分の技術を活かすことでその人の生活が豊かになるようお手伝いをしていきたいと思っています。海外で経験したことをもっと活かして、日本との架け橋になれたら幸せですね。

コンパクトガイド