CAPE
SPECIAL
INTERVIEW

Vol. 5

2006.4

がん患者さんへの
体圧分散式マットレスの選択と地域連携

内藤 亜由美さん

藤沢市民病院 地域医療部 地域医療連携室 WOC相談室担当 WOC看護認定看護師

※所属・役職等はインタビュー当時のものです。

褥瘡を予防するという発想を徹底し、病院全体で対策に取り組む。

4年ほど前から藤沢市民病院では、褥瘡対策委員会を設置して病院全体で褥瘡対策に取り組んでいます。当院では地域医療の中核を担う急性期病院という役割のため、重篤なケースも多くいらっしゃいます。また、地域がん診療拠点病院でもありますので、がん患者さんの褥瘡管理というと終末期を思い浮かべがちですが、終末期になる以前の検査入院、治療、手術などいろいろな段階の患者さんに対応しています。検査や治療、手術の安静など、さまざまな患者さんの状況において褥瘡予防が必要と考えています。

2003年から褥瘡管理システムを導入していますが、月別の統計データをみると、入院実患者数の約10%が体圧分散式マットレスを必要としていて、そのうちの26%が二層式エアマットレスのトライセル、40%がビッグセル‐Exのような超低圧保持機能付きエアマットレスを必要としていることがわかりました。経験として感じてはいたのですが、高機能なエアマットレスの追加補充の必要性を、今データを確認して改めて感じています。

がんはまず症状のコントロール、症状にあわせた褥瘡予防が大切。

がん患者さんの場合はさまざまな症状のコントロールがまず第一に必要になります。例えば、呼吸苦を伴う場合は背上げした姿勢を好む場合が多いです。そのような場合、尾骨部に褥瘡ができやすくなりますので、背上げ時の尾骨部の底づきやズレを抑えるトライセルのような二層式のエアマットレスを使用しています

下半身にリンパ浮腫が見られる場合は、皮膚が脆弱になりますから、踵の褥瘡対策が欠かせません。ビッグセル‐Exのような踵の褥瘡予防に配慮したエアマットを使用したり、下肢の組織間貯留液を軽減するために、下肢に弾性包帯を使用したり、ポジショニングで踵を直接マットレスにふれないようにするなどの方法で予防しています。

また、腹水が貯留している場合は仰臥位の姿勢が苦痛となるため90度側臥位を好む患者さんが多いです。化学療法の影響や、終末期で吐き気があるので動きたくない患者さんの場合は、得手体位を尊重したり、体位変換の回数を減らしても褥瘡が予防できるように、ビッグセル‐Exのような高機能のエアマットレスを患者と相談しながら使用しています。 ただ、高機能のエアマットレスを使用すると「今までの寝心地と違う」「ふわふわしすぎていやだ」という声も聴かれます。終末期患者さんの場合は、安楽を最優先するということをケア目標とし、患者・家族・医療者間で目標を統一して、体位変換や、安定感が得られるウレタンフォームマットレスなどその他のできることで予防を図る場合もあります。

入院-在宅の継続したケアを行うための地域連携。

藤沢市民病院は、1971年の設立当初から、地域の医療機関との地域連携に取り組んできました。身近なことでいうと、介護申請を済ませている患者が退院して在宅療養に移るときには、ケアマネージャーに介護保険で体圧分散式マットレスを退院当日から利用できるように連絡調整をしたり、介護申請がまだの方には介護保険の申請方法を説明しています。その他、介護保険以外の身体障害者手帳などの社会保障制度を利用する患者の場合はソーシャルワーカーと連携をとっています。また、退院前に患者の自宅へ同行訪問をして、車椅子や介護用ベッドが使えるかなど、自宅の環境を確認するケースもあります。退院後の生活環境を把握しておくのは大切なことです。リハビリテーション科と連携をとりながら、どのようにすれば褥瘡を予防できる在宅療養が可能になるか検討するケースもあります。

そのほかには、ケアマネージャーや訪問看護師対象に褥瘡予防の勉強会を開催しています。「WOC相談室」で扱う皮膚のトラブルは、入院中から在宅まで患者さんにとって大切な問題です。病院側は、退院後在宅でも実践可能な褥瘡予防やケアを退院前にプランニングする必要があります。地域全体で共通意識を持ち、ケアの質を高めていかなければならないと考えています。勉強会には地域の病院や訪問看護ステーションからも大勢ご参加いただき、有意義な時間となっています。

介護保険の改定で期待される、在宅での体圧分散式マットレスの使用。

入院中であっても在宅療養であっても褥瘡予防を考えると、やはりその方の状況にあった適切な体圧分散式マットレスを使用して頂きたいです。その効果や違いはまだまだ一般の方には普及されておりませんし、一度できた褥瘡は治らないものとあきらめている方も少なくありません。褥瘡予防について啓蒙するのが私たちの役割ですが、以前はレンタル料金の壁があって、介護保険対象外の方の場合、家族に経済的な負担をかけることになるので体圧分散式マットレスの在宅での利用が難しかったケースもありました。今年の4月より介護保険の改定により、がん終末期の患者さんに限りますが、40歳を過ぎていれば介護保険で1割の負担で体圧分散式マットレス(介護保険においては床ずれ防止用具)が利用できるようになりました。経済的負担の大きいがん患者さんにとってありがたい改定だったと思います。

実際、在宅で体圧分散式マットレスを使用した印象深い例を挙げます。テレビがとても好きな末期がんの方の訪問看護に伺っていたことがありました。患者さんが過ごしているお部屋にはベッドの足元の方にしかテレビを置くスペースが無く、テレビを観るために患者さんはどうしても背上げの姿勢をとらざるを得ませんでした。そのため、背上げによるずれによってできた褥瘡が尾骨部にありました。介護用品店に奨められたという上敷きのウレタンフォームマットレスを使用していたためトライセルに変更していただいたところ、他は何も変更していないにも関わらず褥瘡が治って家族はとても驚いていました。

また、骨盤内のがん終末期の患者さんで、全身状態が悪く退院は困難な状態でしたが、娘さんと猫の待つ家にどうしても帰りたいという希望があり、外泊のみ許可となった方がおりました。胸水がたまり背あげが本人にとって安楽であり、リンパ節転移のため両下肢はパンパンに著明な浮腫がある状態でした。病院ではビッグセル‐Exを使用していました。その方の外泊にあたっては介護ベッドと在宅酸素、ビッグセル‐Exを患者が自宅に到着してすぐ使用できる状態に手配し外泊に同行しました。環境を整備した上で外泊ができ、褥瘡もつくらずにまた病院に戻ることができました。この方はその一週間後にお亡くなりになりましたが、娘さんからは価値ある2日間でしたと大変に感謝された覚えがあります。

このように、一般の方にも体圧分散式マットレスの効果が普及し効果的に使えるようになれば、在宅での褥瘡予防につながると思います。

急性期病院には急性期病院の役割がありますし、地域医療機関にも、訪問看護ステーションにも、それぞれの役割があると思います。ですから、これからも地域保健医療機関とつながりを密にして、地域での創傷ケア研究会の発足や褥瘡地域連携パスをつくることなどに努めていくことが課題です。そして、一般市民の皆様には、褥瘡予防に関する啓蒙活動を行っていきたいと思っています。

藤沢市民病院

1971年10月1日、藤沢市が開設。2000年4月、神奈川県下では初めて地域医療支援病院の承認を受ける。2003年2月、地域医療連携室に、在宅から病院まで一貫した継続的ケアを目的にしたWOC相談室を開設。2005年1月、地域がん診療拠点病院の指定を受ける。神奈川県藤沢市が目指す「市民が一生安心して暮らせる町づくり」、その医療面の中核を担っている。