CAPE
SPECIAL
INTERVIEW

Vol. 8

2007.12

理学療法士の視点からの褥瘡予防ケアと連携

近藤龍雄さん

飯田市立高松診療所 リハビリテーション科
飯田市上郷介護老人保健施設「ゆうゆう」訪問リハビリテーション部 ※2施設の理学療法士を兼務

※所属・役職等はインタビュー当時のものです。

褥瘡予防に関する最新情報の収集からスタート

どんなきっかけで、褥瘡予防ケアに取り組むようになったのですか

私が褥瘡予防を意識してケアを行うようになったのは、院内の褥瘡対策委員になったことがきっかけです。その活動の為に情報収集をしていく中で、昔と褥瘡の予防やケアの考え方が変わっていることを知り、とても驚きました。そして、その後最初に取り組んだ当時訪問リハビリで担当していた78歳男性のケースが、さらに褥瘡予防ケアについて考えるきっかけとなりました。

在宅療養が始まり、2日間のショートステイ中に褥瘡が発生。介護者である奥様がパニック状態になってしまい、安定していた生活が一変しました。その様子を見て、これは何とかしなくてはと褥瘡の発生原因、創の評価、処置について勉強し、それを周りの関係者に情報発信していきました。結果的にこの男性の場合は、介護者・医師・訪問看護師・ヘルパー・福祉用具貸与事業者との連携のもと、1年3ヵ月という長い期間をかけて褥瘡が治癒しました。褥瘡について学ぶきっかけとなり、予防と連携の大切さを知り、今日までの私の活動の原点となった思い出深いケースですね。

理学療法士の介入が褥瘡予防ケアに活かせる点は

理学療法士がまず行うのは、療養者の動きの評価です。それによって、どこに圧がかかっているのか確認できるので、褥瘡発生部位の予測ができます。創があれば、創を評価して、動きと関連させ発生原因の除去が可能になります。また、介護者が継続したケアが行えるよう楽な介助方法を指導しながら、療養者ができる限りご自身で動くことができるような自然な動きの介助方法も指導していきます。ご自身で動いていただく方が、介助して動かすより皮膚のずれは少ないんです。さらに、療養者の緊張を落とすためにポジショニングやピローの入れ方も指導し、そして褥瘡部位に圧迫がかからないような工夫と方法にも注意します。

その他、療養者に合った福祉用具の選定と使用方法もアドバイスしています。例えば、床ずれ防止用具の選定や評価では、体圧測定器を用いて体圧値を測定しています。以前、ムレを防ぐために、エアマットの上にベッドパッドを敷いていた方がいらっしゃいました。体圧測定器で測ってみると60~70mmHgとベストの数値の倍近くになることが分かり、ベッドパッドの代わりに、シーツやオムツをムレを防ぐ製品に替えることを提案しました。実際に数値を見せることで納得してもらえる場合が多いので、体圧測定器での測定を指導に有効に使っています。福祉用具を扱う貸与事業者の方にも体圧測定をしていただくようお願いしています。

病院でチーム医療があるように、在宅でも必要

褥瘡予防ケアのための連携には何が大切ですか

何よりも正確な情報の共有が大切です。訪問リハビリを行うことができるのは週に1~2回です。誰かが間違ったポジショニングをすれば、療養者は長いときには7~8時間もその姿勢のままになってしまいます。先ほどの男性の場合は、正しいポジショニングの状態を写真に撮って、ベッド脇の壁に貼りました。身体のどの部分にクッションやタオルを入れるのか、介護者や訪問スタッフ全員に把握してもらうためです。連絡ノートの活用も重要で、一方向の情報の提供にならないように全スタッフが関わった時の様子を一冊に記入していきます。
実際、ポジショニングなどのケアは統一することは難しいのですが、療養者に関わる訪問スタッフが褥瘡に対して意識を持っていただくだけで、創がよくなることも経験しました。
病院でもチームで治療を行うように、在宅という場でもそれぞれの専門技術や経験を持つ人たちが情報を共有して、互いのケア内容を理解しあい、チームで連携していくことが必要だと思います。

連携の活動について教えてください

在宅ケアの連携で大切なのは、まずケアに関わる人々が顔をあわせることではないでしょうか。担当者会議の活用は、連携の第一歩だと思います。私は、担当者会議をきっかけに看護師やヘルパーの方から褥瘡ケアの方法、おむつ交換に関する注意点や困っていることなど、様々なことを学びました。ケースに関して各々が果たす役割を確認すると共に、自分の職域に留まらず、幅広い知識や情報を知ること、それが褥瘡予防をはじめ在宅ケアの質の向上につながるのではないでしょうか。

理学療法士の立場からは、担当者会議の前後にお時間をいただき、介護者、訪問看護師やヘルパーの方にポジショニングと介助方法を指導しています。一度指導するだけでなく、繰り返し行う機会を持つようにもしています。また、その際には必ずご自身で体験もしていただいています。自ら体験するとズレや圧を実感できますから、ピロー等をどこに入れれば楽なのかが分かり、正しいポジショニングや除圧への意識が高まるんです。

それによって一人でも多くの療養者の方が、安楽に過ごせるようになればいいですよね。

療養者は日本の社会を支えてきた方

最後に褥瘡予防ケアへの思いを教えてください

褥瘡予防ケアは、私がいつも言っていることですが「手抜きはせずに、背抜き、尻抜き、踵抜き」がまず大事だと思っています。難しいことではないんです。療養者の方を大事に思う気持ちがあれば、だれにでもできることではないでしょうか。
高齢の方、ターミナルケアの方の場合も、動けないのは仕方がないと思わずに、これ以上身体が拘縮しないように、褥瘡が発生しないように最善を尽くし、少しでも長く安楽に住み慣れた自宅で過ごしていただきたい。皆さん、日本の社会を支えてきた方々なのですから、最期まで人間としての尊厳を失わないようケアして差し上げたいですね。これからも私はそんな気持ちで、努力していきたいと思っています。